2023年5月13日土曜日

第22回研究会のお知らせ



第22回研究会を下記の通り開催します。

多くのみなさんのご参加をお待ちしております。


日時:2023年5月27日(土)14:00~ (ハイフレックス開催)

会場:國學院大學渋谷キャンパス(若木タワー5階 0509演習室)

   ※ 以前までとは違う会場です。

   およびオンライン会場(ZOOM)

※参加される方はお申し込みフォームhttps://forms.office.com/r/0JNhLAjF67よりお申し込みください(2023年5月25日締め切り)。

※オンラインではZOOMを使用します。申し込みいただいたすべての方に、当日、ミーティング情報をメールでお知らせいたします。

※タイトルは変更される可能性があります。


発表1 安西生世 (國學院大學大学院文学研究科)

植田晃司と石見神楽「大蛇」―石見神楽の〈オロチ〉誕生が地域に与えた影響―

本発表では、石見神楽の伝統的産業のうち、「石見神楽蛇胴」の製作者と成立過程を明らかにし、地域内外に与えた影響について検討する。

島根県西部・石見地域の民俗芸能、石見神楽の演目「大蛇」で用いられる「石見神楽蛇胴」は、明治末期に浜田市の石見神楽長浜社中・植田晃司が提灯をヒントに考案し、製作技術と〈オロチ〉の舞法を確立した。

この〈オロチ〉誕生以前は、蛇頭を頭にかぶり、鱗紋を描いた白衣袴の装束を用いた一人立ちの舞だった。「石見神楽蛇胴」は最長約17mにもなり、自在に伸縮するため、神話「素戔嗚尊の八岐大蛇退治」を表現する上で非常に効果的で、地域の人びとや他の神楽社中にも〈オロチ〉は受容された。

明治期から昭和の戦後にかけて全盛を極めた石見神楽長浜社中の活動と、植田晃司の蛇胴製作および舞法の教授によって、「石見神楽蛇胴」による〈オロチ〉は石見地域全体の演目「大蛇」の芸態に大きな影響を与えた。昭和30年代以降は、孫・植田倫吉が「植田晃司」の名と技術を継承し〈オロチ〉の発展と伝播を支えて現在に至る。

昭和45年の万国博覧会(大阪府)では、はじめて3つの神楽社中が合同で13頭の〈オロチ〉を出して「石見神楽・大蛇退治」のパフォーマンスを披露した。これまで、万国博覧会が石見神楽「大蛇」の最大の転換期といわれてきたが、明治末期の成立以降、石見地域で人々のおどろきと文化の受容を積み重ねた結果、石見神楽の代名詞という評価を勝ち得たのである。

しかし「石見神楽蛇胴」は、明治期以降に生まれた〈新しい文化〉として重要視されてこなかった。本発表では、当代の植田晃司や地域の人びとの聞き取り調査や資料調査の結果を提示し、石見神楽の文化と他地域の民俗芸能を支える伝統的産業の研究の必要性を検討する。


発表2 大泉雄都(帝京大学大学院文学研究科)

天然理心流剣術の「型」における内と外

天然理心流は、江戸時代寛政年間(1790年頃)に近藤内蔵之介が創始した剣術流派である。近藤内蔵之介については、遠江(静岡)の出身ということ以外詳しいことは伝わっていないが、諸国を漫遊して「鹿島神道流(鹿島心当流)」を学んだ後に天然理心流を創始したといわれている。蔵之介は、江戸両国の薬研彫りに自身の道場を構えながら、武州多摩地方や相州へも稽古に出向いて門徒の指導に当たったとされ、日野、八王子にも天然理心流が伝えられた。「八王子千人同心」を始め、周辺の村々からも多くの人が学んだとされる剣術である。その後、新撰組の隊士、近藤勇、沖田総司らが道場を継ぎ、現在も10代目宗家・平井正人氏によって、複数の道場で稽古が行われている。

各道場によって、微量の差があるものの、天然理心流の稽古は、「型」の習得を目的とした型稽古を行っている。天然理心流の「型」は入門編の「切り紙」から始まり「目録」→「中極意目録」→「免許」→「印可」→「指南免許」と、六段階に区分されており各文献に記載された内容を習得する事で、極みに至るといわれている。しかし、文献に残る「型」がすべて再現できているわけではなく、再現された型の習得の他に、宗家と一部の門下生による「型」の再現も道場の活動の中核となっている。「型」の再現にあたっては、文献に残る「型」の内容が一連の動きで再現されているか、一連の動きは合理的かつ再現性の高いものなのかを宗家を含めた門下生で検討する。また、一度再現された型であっても、改変が起こることも多い。

本発表では、天然理心流剣術の型の改変が道場の外にも影響を与える可能性があるのか、実際に道場で扱っている「型」の内容とその改変に着目しながら検討していきたい。

2023年1月17日火曜日

第21回研究会のお知らせ



第21回研究会を下記の通り、オンライン形式で開催します。多くのご参加をお待ちしております。

日時:2023年2月5日(日)14:00~(オンライン形式)

※ 参加される方はお申込みフォームよりお申し込みください(2023年2月3日締め切り)。

※ Zoomを使用します。当日、ミーティング情報をお申込み時にいただいたメールアドレスにお送りします。

※ タイトルは変更される可能性があります。


発表1

Colleen C. Schmuckal シュムコー、コリーン・クリスティナ (東京藝術大学 特別研究員)

ハイアート(高級芸術)としての日本の祭囃子?ーなぜ花輪ばやしの三味線は独立した音楽としても満足できるのかー

Japanese Festival Music as "High Arts"?: How the shamisen part within Hanawa-bayashi can be satisfying as an independent piece of music

花輪ばやし(秋田県鹿角市)は、三大囃子の中で唯一、打楽器と笛の新調に三味線を取り入れ、先行する囃子(祇園囃子と神田囃子)と比較して表現の幅を広げている囃子である。しかし、2016年に花輪ばやしがユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、この音楽の独自性ではなく、太鼓奏者が地上を歩くという祭りの山車の構造によるものである。当時の花輪ばやし会長が説明するように、この祭囃子の音楽が聴覚的に伝えられ、記録された歴史が比較的短いことから、「高級芸術」の価値が低いとみなされたため、ユネスコはこの祭の核心部分、その音楽を見落としてしまった(鹿角市、2019年)。

この音楽の実際の分析では、三味線という重要な楽器が、社会的に複雑な歴史を持ち、後から付け加えられた可能性があること、囃子というジャンル全体において共通の表現がないことなどから、一般に見落とされている。しかし、歴史的にも現在でも芸人たちの先駆的な努力によって、三味線の音楽的な理論と実践を深く理解した上で三味線の音楽的な部分が作られていることは明らかで、三味線の役割と影響力は複雑で、より慎重な検討が必要であると思われる。

2018年以降の花輪ばやしの対面フィールドワーク、インタビュー、実見、そして2018年、2019年、2022年の実際の祭り「舟場屋台」への三味線奏者としての参加を通じて、花輪ばやし自身が内在する音楽史、文化、演奏実践から、より有効な音楽分析手法を生み出すことが本研究の目標である。三味線が加わることで、打楽器や笛の演奏にどのような影響を与えるのか、また、現在の花輪芸人の多くが口にする「三味線パートの満足感」(鹿角市、2022年)を分析することで、このことを明らかにする。花輪ばやしを具体的に分析することは、現在コミュニティで活発に行われている過小評価されている音楽を正統化するために有益である。

Hanawa-bayashi (Kazuno City, Akita Prefecture, Japan) is the only one of the three big hayashi festival musical genres that incorporates shamisen into the shinto ensemble of percussion and flutes, expanding the range of musical expression in comparison to its predecessors. However, in 2016, Hanawa-bayashi was registered as a UNESCO Intangible Cultural Heritage not for this musical uniqueness but instead for the construction of the festival floats; which features the taiko drum players walking on the ground. As the chairman of the Hanawa-bayashi festival, Masahide Tozawa, explained, it is because this festival music is transmitted aurally, and viewed as having little “high cultural art” value due to a relatively short recorded history, UNESCO overlooked the true heart of this festival; its music (Kazuno City, 2019).

The actual analysis of this music has generally overlooked one of the key instruments,  the shamisen, due to its socially complicated history, possible later addition, and lack of common representation within the hayashi genre as a whole. However, it is clear that through the pioneering efforts of the geinin shamisen performers, both historically and still today, the shamisen’s musical part was created through deep understanding of shamisen’s musical theory and practices, making the role and influence of the shamisen both complex and in need of more careful examination.

Through in-person fieldwork, interviews, and first-hand observations of Hanawa-bayashi since 2018, and participation in the actual festival, Funaba Float, in 2018, 2019, and 2022, the goal of this research is to create a more effective music analytical method from Hanawa-bayashi’s own inherent musical history, culture and performance practices. This will be done through analyzing how the addition of shamisen influences the musical practices of the percussion and flutes, as well as how the shamisen part feels “satisfying”: a statement made by many present day Hanawa geinin performers (Kazuno City, 2022). A concrete analysis of Hanawa-bayashi music is beneficial for legitimizing under-appreciated musics actively performed by communities today.

発表2

藤森寛志(和歌山県教育委員会文化遺産課)

御坊祭の奉納芸能 ー  『御坊祭総合調査報告書』の刊行よりー

御坊祭は、紀伊半島海岸部のほぼ中央に位置する和歌山県御坊市薗に鎮座する小竹八幡神社(しのはちまんじんじゃ)にて毎年10月4日と5日の両日に行われる日高地域最大の祭礼である。

祭りは、氏子組九組から構成され、なかでも江戸時代から祭りを構成している一部の組からは奴踊(やっこおどり)や雀踊(すずめおどり)、戯瓢踊(けほんおどり)などの諸芸能が奉納される。また、全ての組から獅子舞と余興としての四つ太鼓が出される。御坊祭の特徴のい一つは、祭りを彩るこれらの奉納芸能の豊富さが挙げられる。

本報告では、平成31年から令和3年度にかけて文化庁の国庫補助金の交付を受けて御坊市が実施した「御坊祭民俗文化財調査事業」の成果から見えてきた御坊祭の奉納芸能の特徴について紹介する。