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日時:2017年2月25日(土)14時~
会場:早稲田大学人間総合研究センター分室(27-8号館) 高田牧舎2階(新宿区戸塚町1-101)
報告1:報告1:伊藤 純(早稲田大学人間総合研究センター)
「民俗芸能・明治大正昭和再考―揺籃期民俗芸能研究の同時代評―」
本田安次『民俗芸能採訪録』(1971年)や永田衡吉『民俗芸能・明治大正昭和』(1982年)のように民俗芸能研究の軌跡や学史の振り返りは、しばしば民俗芸能研究者自身による当事者としての語りあるいは調査経験・知見の披瀝として描かれることがある。また、民俗藝術の会を活動の場とした先人たちの研究ついても検討され、いわば民俗芸能研究の正史としての学知が形成されつつある。一方で、1980年代末から1990年代にかけては、橋本裕之を旗頭に、民俗芸能研究に内在するイデオロギーが問題化され、民俗芸能研究の一定程度の相対化も図られた。
ところで、民俗芸能研究の黎明期・揺籃期(そして現在もだが)には、研究者のテキストのみならず、多様なメディアで芸能に関するテキストが生成されている。近代的認識のなかで民俗芸能研究は起こり、その後景にある鉄道整備、新聞社の登場、劇場建設運動、帝国主義日本、郷土研究・民俗学の成立といった様々な局面と対合しながら芸能がとりあげられている。研究者のテキストだけでなく、芸能や芸能研究に関する同時代評をテキストの中心に据えることで、これまでとは異なる学史を描けるのではないだろうか。本報告では学史検討の方法それじたいをも主題としつつ、新たな民俗芸能研究の学史について試論する場としたい。
報告2:鈴木昂太(総合研究大学院大学)
「広島県の神楽が経験した近現代―政治・民俗学・文化財―」
我々が見ることができる現在の民俗芸能を理解する上では、近現代が与えた影響を無視することはできない。
たとえば、明治初めに出されたとされる「神職演舞禁止令」と「神懸り禁止令」を受けて、神楽の担い手が神職から一般村人へと移り、囃子のリズムが速く娯楽性が重視された石見神楽や芸北神楽が創出されたとされている。この場合、明治新政府が意図した国家神道の確立という政治上の命題が影響を与え、神楽の担い手や祭式に変化が引き起こされた。
また、大正時代になると、地域で伝承されていた民俗芸能が、都会から訪れる学者によって発見され、評価が与えられていく。そうした過程のなかで、研究者の理解が地元に影響を及ぼし、神楽の意義や呼称が新たに創られることもあった。
さらに戦後になると、研究者が与えた評価に基づいて文化財指定が行われ、保存会という新たな伝承組織や伝承活動に対する補助金の創設が行われたり、祭礼の現地公開など新たな披露の場が生み出された。
このように近現代における政治・民俗学・文化財は、地域において伝承されてきた民俗芸能に、外から影響を与えてきた。その一方で、民俗芸能の伝承者は、政治・民俗学・文化財の影響を逆に利用し、時代の変化に対応を図ってきている。近現代における民俗芸能の変化を捉える上では、地域の外部から与えられた影響だけでなく、地域や伝承者がそれをどう受け止め、昇華していったかという対応の歴史に注目しなければならない。その際には、そうした選択に至らしめた地域社会及び伝承者内部の論理を踏まえて考察する必要がある。
以上の問題意識を持ち、近現代という時代が広島県の神楽に与えた影響、それに対応するために生じた変化を明らかにしていきたい。本発表では、発表者が継続的に調査している広島県備北地方の神楽を中心に、広島県知事から出された法令、広島県神職会発行の雑誌、神楽師が書き残した手記などの文献資料に基づいて論じていく。