ふるってご参加ください。
日時:7月16日(木) 16時~
場所:早稲田大学人間総合研究センター分室(27-8号館)高田牧舎2階
新宿区戸塚町1-101
発表者:鈴木昂太(総合研究大学院大学)・松岡薫(筑波大学大学院/中央大学校)
要旨
●鈴木昂太「民俗学は神楽をどのように論じたか―牛尾三千夫による「祖霊加入の儀式」論をめぐって―」
中国地方の神楽と田植習俗の偉大な研究者であり、自らも大元神楽の執行する神職であった牛尾三千夫(1907~1986)。彼の神楽論として著名であり、後世の研究に大きな影響を与えたものが、広島県庄原市東城町・西城町の神職と神楽団に伝承される比婆荒神神楽を「祖霊加入の儀式」と捉える論である。本報告では、牛尾の祖霊信仰としての神楽論を民俗学の研究史のなかに位置づけ、その内実を検証し、彼の研究方法の問題を明らかにする試みを行う。
具体的には、まず、柳田をはじめとする民俗学が作りあげた祖霊信仰論を、農政・村落組織(家・同族・名)・氏神論の観点から整理し、祖霊と同族概念に関する問題を指摘する。続いて、問題を抱えた祖霊信仰論が牛尾によってどのように比婆荒神神楽に投射されたのかを確認し、その後の研究のなかでどうやって補強され、結果として現地の伝承にどんな影響を与えたのかを検証していく。この作業を通して、民俗学が民俗芸能・神楽をどのように捉えてきたのかを提示し、民俗芸能研究における研究方法の問題を提起していきたい。
●松岡薫「俄を演じる人々―熊本県阿蘇郡高森町の風鎮祭を事例に―」
民俗芸能研究において、「誰がその芸能を演じるのか」という問いは、重要な関心事の1つである。
熊本県阿蘇郡高森町の風鎮祭では、「向上会」と呼ばれる青年組織に加入する青年たちによって毎年俄が演じられる。向上会は、大正15(1926)年に、既存の青年団とは異なるものとして新たに組織された。戦後に青年団が解体された後は、向上会が青年団の活動も引き継ぐようにになったが、それ以前には、両者の活動は明確に区分されていた。現在の向上会には厳格な入会規定はなく、高森在住の青年であれば誰でも入会できる。その一方で、住民に対し、入会への強制力も働かないため、入会者の減少で組織運営が困難になってきている町内も存在している。つまり、現在の向上会は、青年であれば、誰でも入会できるが、誰しもが入会するわけではないのである。更に、向上会の構成員をみてみると、ある事情を抱えて入会している者の存在に気付く。
本報告では、向上会という組織がいかなる組織なのか、歴史的経緯にも触れながら整理する。そして、向上会に所属する彼らが、祭礼のなかで俄を演じるということに、どのような意味が付与されているのか考察してみたい。